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T's STUDIO:FROM USA

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08年リコーMLB開幕戦メディカルリエゾンサポート報告

大木 学ATC Boston Redsox編
第1回「組織の力について」

写真 Boston RedSoxは皆さんご存知の通り、昨シーズンMLBワールドチャンピオンになったチームです。人気や実力、チームの資金力も非常に高いチームです。それは、松坂選手とBostonの契約金を見ても、在籍している選手の顔ぶれを見ても容易に想像できます。チームの中心選手・人気選手はくせのある選手が多く、選手の年齢や国籍もOakland Athleticsと比較しても非常に多様です。選手の国籍はUSA・ドミニカ共和国・プエルトリコ・ベネズエラ・日本など、国際色豊かです。コーチやスタッフも、白人・黒人・プエルトリコ人・日本人と、選手同様にバラエティーに富んでいます。また、ベテラン選手が多い一方、若い選手も活躍を期待されています。

クラブハウス内をざっと見て、25名ほどが働いていました。監督・コーチが7名、Dr3名(内科1名・整形外科2名)、S&Cコーチ1名、ATC3名(ヘッドトレーナー、PT/ATC資格保有者、日本人ATC)、マッサージセラピスト2名、旅行担当1名+アシスタント2名、用具担当2名、日本語通訳1名、マスコット担当1名など。選手は28名ほどだったと思います。クラブハウス内で、選手の周辺で常時働いていたスタッフがこの人数ですから、いなかった人数を含めると、全体で40名くらいは今回の開幕ツアーに帯同していたようです。

人種はもちろんのこと、業種も多様なこのような組織の場合、日常生活においてすら言葉や文化の壁が少なからずあると想像できます。今回のツアーでは、日本での開幕戦を終えてもBostonに帰らず、4月6日まで米国各地を移動するとのことでした。スタッフの一人が「我々はあちこち巡業するサーカス団と一緒ですよ。」と言っていたのが印象的でした。一ヶ月近く寝食を共にし、その上ぎりぎりの勝負をする環境において、様々な障害を感じさせず、選手もスタッフもそれぞれの業務を完遂していく原動力は何であろうと、ツアー中ずっと観察していました。数日間同じ空間と時間を過ごす中、ひとつの答えが見つかりました。それは、「高いプロ意識と能力」です。

エキシビジョンマッチの時と公式戦の時の選手の顔つきや、開幕戦に登録された選手と外れた選手の顔つきの差がそれを物語っていました。試合に臨む選手の緊張した顔、闘志ある顔、ホテルにいる時のリラックスした時の顔とこうまで変わるものだと感心しました。スタッフの顔にも同じ空気を感じました。ロッカールームやクラブハウスでの監督やコーチ、マネージメントスタッフの緊張感は、初日から感じました。最初は長旅の後の初めての場所だからと思っていましたが、仕事に対する姿勢は最終日東京ドームを出るまで変わりませんでした。

写真 Bostonの「チームワーク」は個々のパフォーマンスの高さに支えられているのだと思います。試合中まずいプレーがあれば、厳しい言葉や空気がクラブハウス内、トレーナールーム内で容赦なく出ます。選手は、試合中はもちろん、試合の前後にも自分のやるべきことに真摯に取り組んでいました。多くの選手が体のケア、例えば肩のトレーニング、予防のためのアイシング等を徹底していました。体のケアの他にも、オルティス選手や松坂選手は試合中、ダグアウトに帰って来たらすぐに自分のパフォーマンスをビデオで確認していました。一度しかない次のプレーに、徹底した準備で望む姿がありました。

スタッフも、失敗は決して許さない雰囲気でした。チケット一枚一枚を丁寧に数える旅行担当スタッフ、いつも駆け足の用具担当スタッフ、そして、どんなに小さな問題でもおろそかに扱わないメディカルチーム。打撃投手をしていたコーチも(年齢もありますが)、投手と同じ肩トレーニング・メニューをトレーナーと行っていて、体を大事にしていました。高いレベルで、自分の実力を常に100%発揮する姿がありました。

ただ同時に、スタッフ間のピンと張り詰めた緊張感の中に、お互いの仕事に対する尊敬・尊重が垣間見えました。常に会話の最後には、いたわりや感謝の言葉がありました。クラブハウス内に、選手もスタッフも、皆が手を抜かず真剣に取り組む雰囲気と、そこから自然に生まれてくる信頼感を感じました。

個性ある選手達、年齢差、人種や文化の多様性など、一見するとチームがバラバラになってしまいそうな要素が目立ちます。しかし、このような集団がかくもお互いに求心力を持ち、結果を出す要因は、個々の実力と意識の高さ、そしてそれを評価し報いることのできるクラブの実力だと思います。勝利・優勝を勝ち取るために皆が真剣に臨むから、その対価として巨額な資金やエネルギーをかけているのだと思います。そこに人々は共感や尊敬をしたり、逆にライバル心を燃やしたりするのでしょう。今回、Bostonの内側に入ることができ、その魅力、その組織力に圧倒されました。

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