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T's STUDIO:コラム

T's STUDIO

アスレティック・トレーナー(AT)の目線、カメラマンの目線

T's STUDIO写真たとえば、ラグビーの試合が目の前で行われていたとする。
アナタの目は何を追うか…。
「ボールを追う」なら、あなたは観客だ。
「ボールが通り過ぎた後の、倒れている選手を追う」なら、あなたは間違いなくATだ。
「ボールが通り過ぎた後の、倒れている選手を追っているATを追う」なら、あなたはATを撮るカメラマンだ…。そりゃ私だ。

6月、梅雨晴れの空の下、リコーの砧グラウンドでは、リコーブラックラムズ対サントリーサンゴリアスの試合が行われていた。
熱心なサポーターの声援に囲まれ、黒い羊達が駆け回る。それをサイドラインから見守っているのがリコーの4人のATだ。彼らの表情をファインダー越しに追いながら、私はヘッドトレーナーの鵜殿 益任さんにインタビューした時のことを思い出していた。

「試合中、鵜殿さんは何を見ているんですか?」と聞く私に、彼はぽつんと答えた。
「ボールが通り過ぎていった、その後を見てる。選手が変な倒れ方しなかったか、ちゃんと起き上がったか…」
その一言が忘れられない。その目線こそが、ATの仕事のすべてを物語っていると思った。

選手達の守護神として

T's STUDIO写真 試合は、リコーにとって苦しい展開になっていた。
相手チームだけでなく、汗ばむほどの日差しも選手達を苦しめている。ちょっとしたロスタイムに、AT達はいっせいに水をもって選手の元へ散っていく。
みるみる消費されていく大量の冷たい水を次々と補充するのも大変な仕事だ。末弘 進住さんは、何リットルもあるウォータークーラーを抱きかかえ、重いだろうに小走りでグランドまで運んでいた。

ようやくハーフタイム。いつもは通訳を兼任している鵜殿さんが、頭部を負傷した選手の応急処置に専念している。
代わりに加古 円さんがコーチの通訳をつとめ、選手達に戦術を伝えている。その間、鈴木 恵子さんは小さな体を伸ばして、大きな選手達の首にアイシング用の氷を入れて回る。
ATの全員がてきぱきと自分の仕事をこなし、できる限り選手を回復させようとしているのだ。
ほどなく、ハーフタイムが終わる…。
ATは裏方だ。選手達が緑のフィールドという表舞台に駆け出して行けば、もうやれることはない。
だからこそ、祈りをこめて選手達の後姿に「大丈夫だから!」と声をかける。

T's STUDIO写真 後半、選手が倒れた。
すばやく加古さんが駆け寄って声をかける。
イヤホンマイクで選手の状況を伝える間もなく、鵜殿さんも走ってきた。
試合は続行中。ボールから選手をかばいながら負傷の程度を探り、助け起こしてライン際までつきそっていく。
退いた選手のケガの緊急度を見極め、それでいて続行中の試合も見守っている。

そんな彼らを見ながら私は思った。
「ATって、選手達の守護神なんだな…」と。
フルバックは守備の最後の砦。でも、各選手の後ろではATが守りを固めている。
選手一人一人の命、選手生命、今期、そして今日のパフォーマンス。長期的、短期的な視野を持ちながら、今、どうすることが選手にとって最善なのか、一瞬のうちに判断する。それがAT。
奥が深そうな仕事じゃないか…。
もっと、彼らを追いかけてみたくなった。

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